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東京高等裁判所 昭和30年(ム)7号 判決 1955年12月21日

再審原告 藤沼藤七郎

再審被告 南河内村長

主文

再審原告の請求を却下する。

再審の訴訟費用は再審原告の負担とする。

事実

再審原告は「原判決(当裁判所昭和二十四年(ネ)第二二六号産米供出個人割当通知取消請求控訴事件)を取消す。再審被告が昭和二十三年十二月二十四日再審原告に対してなした昭和二十三年産米供出個人割当通知は之を取消す。訴訟費用は全部再審被告の負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として、左記のように陳述した。

原審においての再審被告指定代理人藤沼純二は原審の昭和二十五年三月三日の口頭弁論期日(記録第三四〇丁)に、再審被告が昭和二十四年十月二十四日原裁判所で、吉田村では再審原告に対する生産及び供出割当の通知は吉田村民と平等に昭和二十三年五月十日に出したと陳述したのは誤りであり、再審原告に対しては昭和二十三年五月十日には生産及び供出の割当の通知はしていない、同年十二月二十四日までは再審原告に対して右通知をしていないと、その主張を変更し、さらに、昭和二十四年七月五日附再審被告名義答弁書に基いて、再審原告に対しては絹板部落に包含して生産開始前においての事前割当の方法によつたもので、事後割当ではない。その作付計画面積には、田谷藤四郎関係大字花田田三反六畝十二歩は包含していない旨自発的に主張した。再審原告は右の事実を明に争わなかつたのである。従つて右の事実に擬制自白として裁判所は拘束せらるる関係にあるものである。昭和二十三年度主要食糧供出実施要領一の(三)供出割当数量欄によれば、供出割当は完全保有農家に対して行い、一部保有農家には割当てないと規定されている。再審原告はその生産数量が農林大臣の定めた生産者保有数量に満たないのであるから、供出義務はないのである。それなのに、原判決は上記擬制自白に反して他の事実を認定して再審原告の請求を排斥したのである。従つて、原判決は民事訴訟法第四二〇条第一項第九号に当るかしを有するものであり、再審原告は右の事実を原判決の確定後の昭和三十年六月二十七日頃に知つたのである。よつて原判決の取消を求めるため本訴請求に及んだのである。<立証省略>

再審被告訴訟代理人は主文第一項同趣旨の判決を求め、再審原告主張の事実は争うと述べた。<立証省略>

理由

再審原告の主張するような

原判決に有する判決に影響を及ぼす(ような)重要な事項についての判断の遺脱は、上告理由として主張し得るものであり再審原告は原判決に対し詳細な上告理由で上告をなしたのに、本件再審の訴の請求原因として主張した事実についてはこれを主張していないこと本件記録によつて明である。再審原告は右事実を知つたのは昭和三十年六月二十七日頃であると主張しているが、再審原告は原判決の正本を受領した昭和二十八年九月十八日後上告するにさいし、原判決を充分熟読検討したと解するを相当とするから、原判決にかりに再審原告主張のようなかしがあつたとすれば、特別の事情のない限り、その当時当然これを知つたと解するを相当とする。再審原告は右のような特別の事情についてなにも主張立証しない本件では、再審原告は原告主張のようなかしを知つていて上告にさいしては主張しなかつたと認めるを相当とするから本訴はこの点で許されないものである。そればかりではなく、本件記録によれば、原審においては、再審原告は昭和二十三年度主要食糧供出実施要領一の(三)に関する主張をなしていないし(記録二八四丁以下その他参照)、又再審被告は原審においての弁論の全趣旨によれば、再審原告主張の田については再審原告において耕作しているものとして供出割当をなしたと主張して、再審原告主張のような主張をなしておらないことを認めることができる。

従つて、再審原告の本訴請求はいずれにしても理由がないから、その他の点についての判断をなすまでもなく、これを却下し、再審での訴訟費用の負担について民事訴訟法第九五条第八九条を適用し、主文のように判決する。

(裁判官 柳川昌勝 村松俊夫 中村匡三)

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